アンビバレンス~アンビバレントな心理~

 アンビバレンスは、フロイトの精神分析において「愛と憎しみの葛藤」の象徴として定義されました。簡単に言えば「好きだけど嫌い」という感情です。
 
 アンビバレンスにおいては、ポジティブとネガティブの両価性(両面性)があり、これが何らかのきっかけで針が極端なほど振り切れてしまい、ネガティブに激しく偏ったとき、「可愛さ余って憎さ100倍」のような事態を招く危険もあります。

 アンビバレンスは好き嫌いだけでなく、たとえば「嬉しいけど悲しい」「知りたいけど知りたくない」「尊敬するけど軽蔑もしている」「死にたいけど死にたくない」のように、正反対の感情や思考が同居する様を表しています。

 問診や傾聴カウンセリングにおいては、相手のアンビバレントな徴候を察知することも重要な視点の一つです。

 境界性パーソナリティー障害や統合失調症の臨床においても、アンビバレンスに似た現象に出くわすことがあります。

 たとえば同じ相手に対して「好きになっている」とき、「嫌いになっている」とき、このギャップが激しい状態…、これが人間関係の不安定さとして現れます。ある友達に対して昨日まではあんなに好き好きと言っていたのに、今日になったら大っ嫌いみたいなことを言ってくる、そんなパターンです。

 総合臨床においては、患者さんの主訴が運動器系や自律神経系であったとしても、上記のような徴候が見られたら相応の注意が必要です。

自己相反~理性で真情を抑え込む心理~

 当会は「痛みのソフト論」の中で、個人の思いがねじれて脳のエネルギーバランスが崩れると、痛み回路が賦活されやすいこと(→ソフトペイン)を説明しています。

 この際の「思いのねじれ」は、感情と理性の葛藤を意味しており、先述したアンビバレンスとは異なる状況です。

 たとえば「本当は…したいけれど、でも…できない(するわけにはいかない、してはならない)」「本当は…したくないけれど、しかし…やらねばならない」のように真の思いと決断のあいだに乖離が生じる状態です。

 このように真の思い(真情)と思考や論理が相反する状態を自己相反と呼びます。 

 心理学におけるアンビバレンスは「相反する二つの感情」あるいは「相反する二つの思考」がねじれるのに対し、自己相反では感情と理性がねじれる状態であり、さらにそのねじれが強まった際に、理性を優先させて真情を抑え込む心理機制が含意されます

 具体的には、あるとき上司から命じられた仕事が、本心としては「絶対やりたくない仕事」だったけれども、「やらねばならぬ」という理性的な判断を下し、実行しようとする状態です。

 もう一つ例を挙げると、納品先からのクレームを受けたエンジニアが、明らかに先方に非があるにも関わらず、会社が相手方との関係性を優先させ、エンジニアが悪かったということにして事態の収拾を図った…、結果、何の落ち度もないエンジニアが納品先に頭を下げて、一からプログラムを作り直したというケース。

 本心としては「謝罪なんかしたくない」、しかし「謝罪しなければならない」という自己相反。「一から全部やり直しなんて絶対にしたくない」、しかし「やらねばならぬ」という自己相反。

 当会はこうした自己相反は脳のエネルギーバランスを狂わせる(脳疲労)と同時に、痛み回路を賦活させ、結果ソフトペインを醸成する…、場合によってはこれがギックリ腰、四十肩の激痛発作などを誘発し、さらに変換症(旧転換性障害)を引き起こす可能性すらあるということを主張しています(痛みのソフト論)。

 心理学におけるアンビバレンスと自己相反は、一見似たような概念ですが、これまで述べてきたとおり、両者は似て非なるものだということをご理解いただければと思います。