症例レポート『全身の激しい震えのために救急搬送された患者の予後-その後も続く頭部~頚肩部~上肢の振戦(本態性振戦)に対するBFIの効果-』

 本態性振戦は日常の診療でよく見かける症状であり、その多くは病名の由来(本態性=原因が明確でない)どおり、重篤な予後に直結するとか、進行して麻痺になるとかそういう症例に遭遇することはめったにありません。

 もちろん脳卒中後遺症やアルコール依存症など明確な原疾患がある場合は相応の管理が求められますが、同じ振戦でも本態性であれば、患者へのケアは自ずと方向性が定まってくるわけで、患者自身の不安や心配といったメンタルに対するケアは本当に重要です。同時にパーキンソンとの鑑別という視点は欠かせません。

 本症例は2軒の医療機関で本態性振戦と診断されていましたが、患者自らが救急車を要請するほどの激しい振戦を経験し、これがきっかけで当院を受診しました。その顛末としてBFIおよび心理カウンセリングの効果と意義について解説いたします。

≪追記≫
この症例はその後(3年後)パーキンソン病を発症しました(診断されました)。同じ本態性振戦でも、普通はあまりない現象(救急車を呼ぶほどの激しい振戦)を伴う場合、やはりパーキンソンの可能性については常に念頭に置いておいたほうが良さそうです…。

実技指導『BFI動的アプローチ(皮膚回旋誘導テクニック)』

 今回、関節運動に同期して皮膚が一定の法則にしたがって回旋し(とくに大腿部ではらせん状に回り)、これが皮膚割線(ランゲルライン)のライン方向と何らかの関連性があるかもしれないという視点が浮上しました。

 この皮膚回旋を誘導するテクニックを使用することで、たとえば膝関節の拘縮治療が以前より効果的に行えることが分かってきました。動画ページ(ACL再建術後感染による関節拘縮)

 さらに皮膚回旋誘導テクニックは痛みの臨床においても有用性があり、これまでのBFI技術(静的アプローチ)と併用することで、間欠性跛行における下肢痛やしびれ、シンスプリントや脛骨疲労骨折、変形性膝関節症、変形性股関節症、坐骨神経痛と言われる症例、その他多くの症例に効果発現を認めます。

 本テクニックの開発初期に皮膚割線やBlaschko(ブラシュコ)線等を意識して皮膚滑走を試行錯誤しましたが、個体差という次元が立ちはだかりました。

※皮膚割線(ランゲルライン)…目に見えない皮膚の張力方向を図示したもので、手術の際にこのラインに沿って切開すると手術痕が目立たなくなるといわれている(ただし皮膚の部位や個体差によってその効果は異なる)。

基調講演『皮膚回旋と脳の関係性について-無意識下情報処理という視点-』

 たとえば上記のような症例に対しても、従来のBFIとニューロフィクスに加え、下腿の皮膚回旋を誘導する施術を併用することで、痛みのコントロールがしやすくなります。

 ただし、このように皮膚の動きにアプローチすることで、拘縮や痛み等の改善が見られるからと言って、「皮膚の問題こそが拘縮や痛みの根本原因である」と考えるのは早計です。たとえば大腿の皮膚回旋を誘導すると、腹鳴を起こす患者が多いことが観察され、皮膚回旋は副交感神経系を介して脳にアクセスする効果が高いことが推断されます。

 肉眼で観察される皮膚の伸長を誘導すると、皮膚緊張の変化を感じる(情報の変化が意識に上る)ことが多いのですが、目に見えない皮膚回旋を誘導しても、その変化が意識に上ることはほとんどありません。心地良さを感じることはあっても、“皮膚が回った”という明確な変化を感知できる被験者はおりません。これこそはまさしく“無意識下情報処理”であろうと推論されます。

 AKA⁻博田法における膝Jの軸回旋が有効に働くメカニズムとして、同時に皮膚回旋をも誘導しているという要因もあり得るのではないか。それ以外の全てのAKA技術が有効に働く真の理由においても、関節深部感覚への刺激がそもそも脳にとっての無意識下情報処理に相当しているからではないか。

 さらに関節であろうと筋膜であろうと皮膚であろうと、運動器(ハード)への何らかの介入によって「運動機能が改善するメカニズム」と「痛みが改善するメカニズム」は別次元の反応として捉えるべきではないか、というのが当会のスタンスです。

 こうした捉え方をすることではじめて運動機能の変化と痛みの変化が一致しない症例を合理的に解釈することができます。

 ハード論(=線形科学の論理)ではA→BならばB→Aという1対1の整合性が担保されますが、“痛み”も“筋協調性”も脳内の神経回路が生成する現象であり、その脳は非線形科学すなわち複雑系であることから1対1の論理は極めて成立しにくいという前提があります。

 CRPS(RSD)やアロディニア等の症例に対しては、いきなり皮膚回旋誘導テクニックを使うと痛みが邪魔をしてスムースに行うことができません。最初に従来のBFI技術(静的アプローチ)を使って、脳の興奮をある程度鎮めことに成功したそのあとで、皮膚を動かすテクニックに進むという二段構えが必要です。

 皮膚に現れる変化は脳の知覚統合プロセスにおけるシステムエラーが引き起こす種々現象の一つかもしれず、ハード論の視点のみで結論付けることは避けるべきで、“脳膚連関”を踏まえて考えていく必要があります。

 脳を相手にしている臨床では原因論と方法論が必ずしも1対1の関係性にならないことに留意すべきと考えます。「見えないものを相手にしている」という明確な自覚が必要です。

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