特別講演Ⅰ『痛みと無意識の関係についてーヒトの無意識に関わる研究最前線ー』

 以下に紹介するのは患者さんから聞いた、たいへん興味深い話です。

 その患者さんのカラオケ仲間の1人に起きた或る出来事がとても衝撃的なんです。その友達があるとき自身の体重減少を気にして病院を受診したそうです。体重の変化以外にとくに目立った症状はなかったらしいのですが、担当医に対して「何かおかしいんです。とにかく詳しく調べてください」と迫ったというのです。

 その気迫に押された医師がしぶしぶ精査したところ、なんと腎臓がんが見つかったそうです(幸い治療しやすい場所に腫瘍があるタイプだったとのこと)。 

 その方の体重減少って、いったいどのくらいだったと思います?なんと200グラムですって。「2キロの間違いじゃないの?」と思わず聞き直してしまいましたが、本当に200グラムだったそうです。

 精査した医師も偉いと思いますが、その方の“第六感”もすごいなあと感心してしまいました(本人がふだんどのような体重管理をしていたのか気になるところではありますが、200グラムというのは食事や運動などで容易に変動する値ですので、医師に検査を迫った真の動機は第六感のようなものだったのではと想像されるわけです)。

 実はこうした人間の無意識の働きや第六感の存在を証明しようとする試み-科学者らによる研究-が既に世界中で行われています。その中心的役割を担っているノエスティック科学研究所のディーン・レイディン博士による実験を以下に紹介します。

 するとその実験結果は下に示すように実に衝撃的なものでした。

 同様の実験を133人に対して延べ4,569回行った結果、多くの人々に第六感のごとき予知能力が備わっていることが分かったというのです。レイディン博士によれば「こうした能力は危険を回避するための生存本能と関係している」とのこと(上の画像は全てNHKスペシャル「超常現象秘められた未知のパワー」より一部加工)。

 世の中には常識で説明のつかない不思議な事って、実は身近なところに溢れていますよね…。虫の知らせ、胸騒ぎ、予知夢、以心伝心…、そして冒頭の“200グラムの話“…。
 
 本講演ではそうした事例に関わる最新研究について紹介いたします。

特別講演 Ⅱ『ソフトペイン、もうひとつの起源-シックスセンスペインとは何か?-』

 近年“ブラインドサイト(盲視)”に関する実験(下記画像はNHK「モーガン・フリーマン時空を超えて」より映像を一部加工)に象徴されるように、“第六感”の存在が実証されつつある。

 この被験者は眼球および視神経の機能に異常はないのであるから、受信された映像信号は視覚野の手前まで入力可能。視覚野での情報処理ができないために“見えていない”つまり映像情報が意識に上らないだけであって、無意識レベルでは情報が処理されることで“感じる経路”が賦活され、これが表情筋に反映された結果であろうと考えられている。

 つまり「“私”には見えないが、“脳”は見て感じている」という現象…。

 こうした実験により明らかになりつつある“第六感の存在”。先の実験を行った研究者らによれば、「その源は無意識下にあって、意識と無意識の境界に謎を解くカギがある」とのこと。

 「その境界こそがデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)であり(当会はこれを“境界意識”と呼ぶ)、DMNが意識と無意識のあいだにおける情報伝達を調節しつつ、自我を形成するハブ神経回路(意識重心)の動きにも深く関与している。痛みの謎を解くカギは間違いなく“無意識”にある!」という独自の説について、前回の研修会で解説した…。

 さらにBFI の効果発現のメカニズムとして想定されている“無意識下情報処理”。昨今の脳科学が解明に挑んでいる第六感はまさしく無意識下情報処理そのものである。

 今後、脳科学の趨勢は間違いなく無意識の研究に向かうはず。ベンジャミン・リベットの実験が明かした「意思の創出350ミリ秒前に発火する運動準備電位」の謎を解くカギも間違いなく無意識にある。初対面の人に出遭った瞬間わずか0.5秒で脳が好き嫌いを判断しているという現象も無意識の情報処理である。

 今年広島カープ優勝を特集したテレビ番組が、かつて1979年日本シリーズ広島VS近鉄戦の「江夏が投じた奇跡の21球」…、スクイズを外した投球を映し出していたが、振りかぶって投げる直前、リリースポイントの寸前手前で「スクイズを察知してボールの軌道を変えた」というあの神業は、江夏投手本人もおそらく自覚できていない無意識の領域で「スクイズの可能性を事前に感じていたからこそ、つまり第六感が働いていたからこそ成し得た奇跡だったのでは」と推測される。なにしろあのときのキャッチャーのサインはカーブだったのだから…。

 野球経験者なら容易に想像できると思うが、カーブの握りをしていてあのように瞬間的に“外す”という投球動作の変更は非常に困難なものがある。運動生理学的にもまったく説明がつかない。意思変更→運動神経回路変更→筋出力変更という手順における神経伝達速度の面からも不可能。したがって無意識下の予測制御が働いていたと考えるのが妥当である。

“私”がスクイズだと気づく前に、“脳”は既にそれを感じていた」のである。

 2012年に発表された「痛み記憶の再生理論」において、脳が過去の経験や記憶に基づいて自発的に出力する痛みをソフトペインと定義し、当会はこれまで「脳の情報処理システムのエラー」という概念を掲げてきた。

 しかし筆者の肉親に発症したCRPS(RSD)に対する24時間全経過観察によって「抑うつ状態にある脳が大うつ病発症(うつ病の重症化)を回避するために行った自衛措置」という視点が推断され、これによりソフトペインの生成理由は「極度に偏った脳代謝バランスを回復させるための言わば代償機能の一種と見なすことができる」という、これまでの痛みの概念を根底から覆す視点が浮上。

 こうした視点で痛みの臨床を捉え直したとき、ソフトペインはシステムエラー(誤作動)というよりはむしろ蓋然性のある情報処理システムのひとつだと考える新たな理論が構築されつつある。

 その一方で、同じソフトペインでも、まったく別次元の生成理由によって生み出されるものがある。前述のソフトペインを“代償性疼痛”と言うならば、それとは別の“機能性疼痛”とも言うべき「もう一つのソフトペイン」が想定され得る。

 ソフトペインには代償性疼痛と機能性疼痛の2種類があり、後者は“第六感性疼痛”すなわち“シックスセンスペイン”と換言することができる。このシックスセンスペインとはいったい何か?

 これを知ることで、人類がこれを認知することで、医療現場における痛みの診断哲学および終末期医療における疼痛管理の在り様が大きく変わる。本講演ではシックスセンスペインのメカニズムについて概説する。

特別講演 Ⅲ『シックスセンスペイン-死と痛みについて考える-』

 運動器プライマリケアの臨床においてはあまり遭遇することのない患者の死。しかし今、本格的な多死社会を迎え、痛みを追究する臨床研究会である当会としても死と痛みの関係を考えないわけにはいかない

 WHOによれば、「生命の危機にある患者の苦痛」として『身体』 『精神(不安、うつ)』 『社会(家族、仕事、お金の問題)』 『スピリチュアル(死の恐怖、死生観の悩み)』の4つがあるとされている。

 (上下画像はNHK「クローズアップ現代」より一部加工)

 日本の終末期医療においては『身体』と『精神』には医療者が、『社会』に関してはソーシャルワーカーが対応しているが、最後の『スピリチュアル』に対応する枠組みがこれまでなかった。

 しかし今年2月、これに対処する新たな仕組みが医療現場に誕生した。特定の宗教、宗派に依らない“臨床宗教師”という資格制度。患者に寄り添い、患者の声に耳を傾け、死に対する精神的苦痛(恐怖心)-スピリチュアルペイン-を少しでも和らげようとする試みが始まった。

 末期癌の患者においては肉体的な痛みのコントロールも当然大きな問題としてあるわけで、そうしたなか医療者や臨床宗教師にとっても、そして何より患者自身にとってシックスセンスペインという概念-たとえ科学的な立証が困難だとしても-、こうした疼痛観が果たす役割は決して小さくない

 これは私たち自身に起き得る問題という観点からも、そして家族を守るという観点からも、1人でも多くの人に伝えたい切実なテーマ。当日は会場の皆と一緒に考えたい。

臨床実験『間接タッピングに関する比較試験』

 BFIテクニックにおいて現在メインとなっている関節近傍の皮膚および骨への非直接的すなわち間接タッピング-術者の中指環指小指の背側を皮膚に当て、母指と示指にてタッピングを行う。

 このときタッピングの強弱、リズム(速さ)の適正値は開発者の感覚や経験に依拠してきましたが、今回その真の適正レベルを探る実験を行います。参加者が被験者と術者に分かれ、強弱の違い、リズムの違いを体感する比較試験です。

 なかでもリズムに関する実験はメトロノームを使用しながら、毎分何回くらいが心地いいのか、さらに被験者の脈拍と同期させた場合との違いなど、時間の許す限り、いろいろなパターンでの違いを体感し合う臨床実験を行います。